【希望のりんごツアー】2015秋
11月14日、15日、希望のりんご陸前高田ツアーが行われた。
一行がまず訪れたのは、和野会館。
りんご畑が点在する丘の上にあるこの公民館は、津波のあと家を失った人たちが避難し、苦しい日々を乗り越えた特別な場所である。
ポリ袋に小麦粉などの材料を入れしゃかしゃかとふるだけで生地ができる、通称「ポリパン」。
生地を触ることで楽しく元気になってもらおうと三陸の各被災地を飛び回ってポリパン教室を行う梶晶子さんを講師に迎え、パンケーキ教室を行った。
参加したのは米崎小学校仮設住宅の子供たち、和野会館に近い仮設住宅に住むお年寄り、そして米崎町のお母さんたち通称「アップルガールズ」。
そこに、ツアー参加者も加わって、パンケーキ作りを行う。
ポリ袋に粉や卵など材料を入れ、しゃかしゃかふると、だんだん生地ができあがってくる。
ふっているうちリズムにのってなんだか楽しくなってくる。
子供たちも、お年寄りも、現地の人も、よそからきた人も。
やりかたがわからないときには訊いたり、手伝ったり、共同作業を通じて、笑顔が広がっていく。
フライパンに生地を落とし、きれいな焼き色でできたときにはみんな大よろこび。
パンケーキに使う小麦粉きたほなみを提供してくれたのは、北海道の十勝・芽室町の小麦農家竹内敬太さん、鳥本孟宏さんと、帯広を代表するベーカリー「満寿屋」の天⽅慎治さん。
フェリーを使い一日がかりで被災地まできてくれた。
身近な食材を実際に作っている生産者に出会う貴重な機会となった。
ラ・テール洋菓子店の中村逸平シェフはとれたての米崎りんごを使ったジャム、そしてクッキーの作り方を教えてくれた。
人なつっこい笑顔と気配りと情熱でたちまちみんなの心をつかんでいた。
中村シェフが教えてくれた、とれたてのりんごで作るりんごジャムと、ポリパンで作ったパンケーキが合わさって完成。
今回は中村シェフの奥様も同行いただき、高齢の方にマッサージなどを施してくれた。
体と体が触れ合うことで、心まで解きほぐしたようで、施術が終わったあとはみんな笑顔になっていた。
アップルガールズはりんごをむいたりなどの下準備や会場の片付けなどなにからなにまでお世話になった。
その元気さにはうかがったこちらのほうがいつも励まされている。
明るい笑顔に会いにまた陸前高田までいきたくなってしまう。
宿泊は箱根山テラス。
地元で産出される木材を使った建築とペレットストーブのぬくもりが心地いい宿泊施設。
このたび、社長の長谷川順一さんが手作りで薪窯を新設。
そこで、ZOPFの伊原靖友店長がピッツァを作るという豪華な企画が持ち上がった。
箱根山テラスのスタッフさんたちとともに生地をこねる。
もともと梶晶子さんがポリパンをこの宿泊施設に伝授、カフェでコーヒーとともに手作りのパンを供しているうち、みんなパン作りが好きになっていた。
ツアー参加者とみんなでお手伝い。
伊原シェフの明るさにつられてみんな大いにピッツァ作りを楽しんだ。
漁師佐々木正悦さんがピッツァにのせるほたてや牡蠣をもってきてくれた。
いま広田湾であがったばかりのとれたてきらきら。
りんご農家の金野秀一さん、アップルガールズのみなさん。
いつもお世話になっている陸前高田の人たちといっしょにテーブルを囲み、語り合う。
大阪グロワールの一楽千賀さんが陸前高田の野菜や海の幸を使って前菜を作ってくれた。
ホタテと大根のサラダに、牡蠣のシチュー、ゆずとイカとカブの和え物…。
北海道チームは実は車に、竹内さん自作の窯を積んでやってきていた。
温度はどうか、薪のくべ方はどうするべきか。
長谷川さんらを交えて、火を囲んでの議論が楽しい。
いよいよピッツァが焼きあがると歓声が上がった。
牡蠣やほたてがとろけるようにおいしかったこと。
ソーセージやハムは、いつも陸前高田を応援してくれているブーランジェリーボヌールの箕輪喜彦さんが新たにオープンさせた「シャルキュトリー・ボヌール」のものを使用。
竹内さんのもってきたゴボウを使って伊原さんが焼いたカンパーニュ。
土作りにこだわったゴボウはまるまると太っていくらでも食べられるほど絶品だった。
金野さんのとれたてのりんごを薄切りにし、クリームを絞ってピッツァにのせる。
極上のデザートピッツァが焼きあがる。
陸前高田の海の幸・山の幸を最高の職人が薪窯で焼いた生地とともに食べる。
極上の時間となった。
「震災前はピッツァ屋が陸前高田にあったけど、なくなってしまった。
本当のピッツァを食べるのは久しぶりだな」
と金野さんも言う。
こんなお店を開き、遠くからりんご畑とパンを食べにきてもらう。
そんな私たちの夢が一足先にかなう夜になった。
翌日、雨にも関わらず、私たちは金野秀一さんのりんご畑を訊ねた。
赤いりんごが点々となる畑が細かい雨で煙る景色もうつくしかった。
金野さんの案内ととこに、悪天候の中みんな夢中になってりんご畑を巡った。
今年は真っ赤な大玉がついた。
晴天がつづいたことでりんごは大きく、赤く成長したのだ。
蜜はたくさん入り、平年よりさらにみずみずしく感じた。
収穫量も多かったのはよかったが、大きなりんごは痛みやすく、日持ちがしない。
そんなふうに毎年ちがい、さまざまなことがあるのが農業だと、ずっとこのりんご畑を訪れるうちに勉強させてもらっている。
りんごの樹オーナーになっている人たちは自分の木に対面。
半年ぶりの対面とはいえ、少し大きくなったことを実感する。
今年はまだりんごはついていないけれど、来年はりんごがなるはずだと金野さんは言う。
金野さんのお宅でりんごのいくつかの品種を食べ比べる。
いつも思うことだが、現地で食べるりんごがいちばんおいしい。
人と出会い、おいしいものを食べ、いっしょに盛り上がる。
自然や人の心という、大事なものをもらって、家路につく。
何度も訪れているうちに陸前高田が故郷同然になっていくのだった。
パンケーキ教室にご参加いただいたみなさま、金野秀一さん、アップルガールズのみなさま、長谷川順一さんはじめ箱根山テラスの方、関係者のみなさま本当にありがとうございました。